さらば防振双眼鏡

内山茂男

防振双眼鏡

2025年の秋にレモン彗星がそれなりの明るさになりました。自宅近くでは空が良くないのですが、もしかしたら双眼鏡で見えるかもしれないと夕空で探してみました。肉眼ではほとんど星が見えない中、北斗七星から星をたどって探してみたのですが、なかなか見つかりません。後日、あらためて挑戦してみたのですが、このときに、“双眼鏡の左側がまったくピントが合わない”という現象が起きていました。使っていた双眼鏡は、キャノンの口径4.5cm 15倍の防振双眼鏡。そのときは、あまり原因を調べることもせず、そのままにしていました。



皆既日食のコロナは双眼鏡で見るのがとても美しいというのですが、1995年にタイで初めて皆既日食を見たときには、そのコロナの素晴らしさに興奮して、双眼鏡を持つ手が震えてしまいました。そこで、1999年のトルコ日食の直前に“防振双眼鏡”を購入して持って行ったのです。防振双眼鏡の威力は素晴らしく、内部コロナのモヤモヤを見事に見ることができました。日食を機会に購入した双眼鏡ですが、もちろん普段の星見にも使うことを考えて選んだ機種です。日食用だけならもう一回り小さいもので十分ですし、その方が外部コロナまで見ることができます。でも、星雲星団や彗星を見ることを考えて5cm近い口径を選んだのです。15倍の倍率はバードウォッチングにも効果的です。こうして、さまざまな場面でこの双眼鏡を使ってきました。

長く使っていると、少しずつですが劣化もしていきます。昼間の景色を見るとややコントラストが低いように感じるようになってきていました。でも、実用上は問題なく使えていました。やがて、プラスチック製の電池ボックスの蓋が壊れました。特にぶつけたわけでもないのですが、カチッとはまりません。仕方ないので“製本テープ”で蓋を固定しました。電池を交換するときにはテープをはがさなければなりませんが、電池交換はめったにしないので実用上問題ありませんでした。そのように、少しずつ問題が生じてきていましたが、26年間十分使えていたのです。

しばらくして時間があったときに、双眼鏡のピントが合わなくなっていたことを思い出しました。覗いてみると、やっぱり左側だけはどうやってもピントが合わず、ボケボケの像しか見えません。そこで、対物レンズ側から覗いてみると、内部レンズのところに“液体”が見えます。双眼鏡を持つ角度を変えるとそれが動くので間違いなしに液体です。結露にしては量が多すぎます。分解して中を見てみようかとも思ったのですが、ネジなどは見当たらず、どこから分解してよいのか見当もつきません。防振機構はデリケートなものでしょうから、分解調整をできないようにしているのかもしれません。

内部の液体 黒い線が液体の境界。
右下側に液体がたまっている。

キャノンの防振機構は“バリアングルプリズム”という“内部に高屈折率液体を入れた頂角可変プリズム”を使っていますので、おそらくこれが壊れて内部の液体が出てしまったでしょう。そうだとすると、修理は不可能に思えます。右目だけなら使えますが、そこまでして使う気にはなりません。残念ですが、廃棄することにしました。


私は、双眼鏡をそれほど多くは使っていませんが、やはり双眼鏡は手元に欲しいものです。彗星を見るのにも必要ですし、これからはスターリンク衛星の落下を見る可能性も高くなってきますが、人工衛星の落下は双眼鏡で見たいものです。新しい防振双眼鏡をちょっと検討しましたが、決して安いものではありません。でも、やっぱり購入した方がいいかな? などと考えていたのですが、古い双眼鏡が1台残っていることに気が付きました。高校時代に購入したもので、キャノンの防振双眼鏡を購入してからは全く使っていなかったものです。皮の専用ケースにしまったままでしたので、「きっとカビだらけになっているんだろうな」という思いがあり、手を触れずにしていた双眼鏡です。今回、キャノンの双眼鏡がダメになったので、恐る恐る出してみました。ケースにはホコリがだいぶたまっていましたが、取り出した双眼鏡にはカビが見えません。これなら十分使えそうです。

双眼鏡双眼鏡

この双眼鏡は、タカハシの“アストロノ―マー 7×40”です。当時は、天文用というと5cm7倍が多かったのですが、5cmだと大きく重くなります。この双眼鏡は4cmで無理の少ない重さになっていて、とても気に入っていたものです。ピント合わせは左右独立のIF(Individual Focus)です。天文用なので、ピントは自分の眼の無限遠に合わせておけばよいのです。ということで、50年近く前に購入した双眼鏡が27年ぶりに復活です。



この文章は、私の所属する“さいたま☆天文同好会”の会報「まがたま」127号 (2026年6月発行)に掲載したものを、一部書き直したものです。


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